飲食店や美容院、物販店などを開業する際、初期費用の大きな部分を占めるのが「内装工事費」です。しかしこの費用、税務上すぐにすべてを経費として落とせるわけではないことをご存じでしょうか?本記事では、内装工事にかかる費用がどのように「減価償却資産」として扱われ、何年で経費として計上されるのか?また、少しでも税務上有利に進めるための工夫についてもわかりやすく解説します。そもそも減価償却とは?減価償却とは、建物や設備などの「長く使う資産」について、その価値を複数年に分けて少しずつ費用として計上する会計上のルールです。たとえば、内装工事に500万円かかった場合、1年でその全額を経費として計上できるわけではありません。税務上定められた「耐用年数」に応じて、毎年少しずつ分割して経費処理する必要があります。内装工事の「耐用年数」とは?内装工事の減価償却を考えるうえでカギとなるのが、「構造」と「用途」です。国税庁が定める耐用年数表によれば、代表的なケースは以下の通りです:内装工事の構造店舗の用途耐用年数(目安)軽量鉄骨造(骨格が薄い)飲食店・美容室など15年木造・合板など飲食店・美容室など10年コンクリート造(RC造)飲食店・オフィスなど20〜22年※上記はあくまで「建物附属設備」として一体化している場合の例です。工事の内容や契約の仕方によって「建物」として計上するか、「設備」「什器」として計上するかが分かれます。減価償却の仕組み:例で見るとこうなるたとえば、軽量鉄骨造のテナントで内装工事を400万円かけた場合、耐用年数が15年なら、400万円 ÷ 15年 = 毎年26万6,666円を経費計上ということになります(定額法の場合)。つまり、一度に400万円の全額を落とすことはできず、毎年少しずつしか経費にできないのです。ケースによっては「短縮」も可能?実は、「少額資産」や「一括償却資産」として扱える場合、耐用年数を待たずに短期間で全額を経費計上できる場合もあります。● 少額減価償却資産(青色申告者)1点10万円未満の工事・備品は、その年の全額を経費にできる。例:棚の設置工事(工賃+材料費が8万円)→即経費に。● 一括償却資産1点10万円超〜20万円未満のものは、3年間で均等償却できる。例:照明設備一式で15万円 → 年5万円ずつ3年で償却。工事の内容によって「経費」として扱える範囲が変わる内装工事にはさまざまな項目が含まれていますが、その中には「減価償却の対象にならず、即時に経費化できる部分」もあります。内装工事の内容処理方法備考床・壁・天井の仕上げ減価償却建物に一体化しているカーテン・ロールスクリーン即時経費化可10万円以下なら特に可家具・什器・備品減価償却 or 即時金額により判断看板・サイン設置方法次第建物一体か独立型かで変化修繕費即時経費原状回復や軽微な補修ポイント:契約や請求書の分け方が節税のカギ工事会社とのやり取りの中で、「全てまとめて一括請求」にすると、すべてが“資産扱い”となり、減価償却が必要になります。しかし、10万円未満の工事や設備を分離して請求すれば、その部分は即時経費にできる可能性が高まります。例えば以下のような分け方が有効です:「内装工事一式 300万円」→ 減価償却「エアコン設置 18万円」→ 3年で償却「看板設置 8万円」→ その年に全額経費化法人と個人事業主で異なるポイント青色申告の個人事業主であれば、特別償却や少額資産の特例を活用しやすいです。一方、法人の場合は会計処理を厳密に求められるため、税理士や経理担当との連携が必須となります。どちらの場合も、「事前に工事内容を把握し、どう処理するかを計画しておく」ことが、節税対策として極めて重要です。開業前にこそ知っておくべき「内装工事×税務」の知識内装工事は、事業開始にあたって避けて通れない出費です。しかし、その処理方法によって、初年度の利益や納税額に大きな違いが出てくる可能性もあります。事業開始前、もしくは内装工事契約前に、以下をチェックしておきましょう:減価償却資産に該当するものは何か?その耐用年数は何年か?少額資産や一括償却資産にできるものはないか?修繕費として即経費化できる内容はあるか?請求書の記載を分けられないか?まとめ内装工事は金額が大きくなりがちな分、税務処理を正しく行うことで、経費計上と節税のバランスを最適化することができます。減価償却のルールを理解し、工事内容を事前に把握・整理することが、経営スタートの大きな一歩になります。必要であれば、内装業者や税理士としっかり連携をとり、無理のない経営計画を立てていきましょう。